2013/11/24

あなたはなぜチェックリストを使わないのか?

アトゥール・ガワンデ『あなたはなぜチェックリストを使わないのか?』を読んだ。満足度★★★★★。

「危機管理⇒チェックリスト⇒コミュニケーション&チームワークの大切さ」がよくわかる。最後の方の「ハドソン川の不時着」の 話がハイライトであり、圧巻だ!チェックリストの効力も凄いが、航空業界の危機対応力も凄いな。仕事で役立てるためには、もう一度読み直せねば。

閉塞感ある日本の会社も「チーム」「コミュニケーション」の2つの改善を行えば、色々な意味でベースは良いだけに、相当いい成果が出るのではなかろうか。


【語録】

人間の記憶力や注意力には限界があるので、見逃しやミスはどうしても起きてしまう。チェックリストはそのような失敗を防いでくれる「安全網」なのだ。

プロによって設置されたが、それでも絶対に問題がないとは言いきれない。いつ何が起こるかわからない。きっと何か問題は起きる。だが、「しかるべき人達」を集め、「チームとして話し合う時間」を作ってやれば、深刻な問題を見極め、それを解決することができるはずだ。そのような信念でこの「チェックリスト」は作られていた。

建設業界の人々は「コミュニケーションの力」を信用している。たとえ経験豊富なエンジニアであろうと、一個人の力を当てにはしない。彼らが信用するのは「集団の力」だ。複数人を問題に取り掛からせ、「チームとして判断」してもらう。

「現状把握とコミュニケーションの円熟化」こそが、ここ数十年の建築の最大の進歩だ。建築業界の人々は、自分達のやり方に驚くほど信頼を寄せている。例えどんなに複雑で深刻な問題でも、「コミュニケーションを確実に取る」ことで解決していく。

本当に複雑な情況、つまり「一個人で知るのは不可能な量の知識を必要とし、不確定要素が多い状況」では、「中央から全てを指示」しようとすると必ず失敗する。これがハリケーン・カトリーナの本当の教訓。

誰にも予期できない、想定の枠をはるかに超えた大災害だった。しかし、それこそがまさしく「複雑な問題」の定義なのだ。「複雑な問題」に対処するには、昔ながらの「一極集中の指令システム」ではなく、「別の方法」が必要なのだ。

複雑な状況に一番うまく対応したのは、大手量販店のウォルマートだった。状況を聞くと「わが社はこの最大級の災害に対応していく。自分が持つ権限以上の決断を下さなければならない状況もたくさん発生すると思う。手元にある情報を元にベストの決断をしろ。そして何より、正しい事をしろ」。社長の命令はそれだけだった。それは各支店長にも伝わり、各自が取るべき姿勢が明確になった。

「各自が柔軟に行動できる余地」を与えるが、「お互い協力し合い、共通のゴールへの進み具合を確かめ合う」といった制約も設ける。複雑な問題に対処するには、「自由と制約の適度な配合」が欠かせない。

どの専門職にも「プロフェッショナリズム」というものがある。その職務の理念と義務をまとめた「行動の規範」だ。プロフェッショナリズムには三つの要素が必ず含まれている。

第一に「無私」であること。どの職業であれ、他人から責任を預かる者は、自分の利益よりも、頼ってくる者の問題や心情を考えるべきだ。第二に「腕」があること。技術と知識を日々研鑽することが求められている。第三に「信用」に足ること。自分の職務に誠実な態度で臨む必要がある。

航空業界の人は、そこに「四つ目」を加えた。「規律」だ。よくできた手順には絶対に従うこと。必ず他者と協力し合うこと。一人ではとても習得しきれない膨大な量の知識を要する現代医療では、「個人の判断」に任せるのは愚策だ。「古い価値観」にしがみついていては、良い医療は提供できない。本当に必要なのは、「絶対に協力し合う」という決まりを作り、常にそれに忠実であることだ。

「規律に忠実でいる」のは難しい。「信用に足る」ことや「腕がある」ことなどよりも難しく、「無私でいる」ことよりも難しいかもしれない。人間というのは「誤りやすく、気まぐれでな生き物」なのだ。私達は、新しくて刺激的なものには飛びつくが、「細部まで丁寧に目を配る」のは面倒だ、と思ってしまいがちだ。私達が「規律で忠実でいる」ためには、「意識的に努力」する必要がある。だからこそ、航空業界は「規律を守ることが当たり前」になるように尽力してきたのだろう。

チェックリストは、業務の邪魔となってしまうような「融通の効かない義務」であってはいけない。どんな単純なチェックリストでも、何度でも改訂して洗練していく必要がある。航空機メーカーが作るチェックリストには、必ず作成日が記されている。常に変わっていくものだからだ。チェックリストは「私達を補佐するもの」だから、その目的にそぐわないものは不要だ。だが、「私達を手助けしてくれる良いチェックリスト」は、受け入れていくべきだ。

現代の人々は様々な「システム」に頼っている。システムを機能させるのは本当に難しい。自分自身が努力するだけでなく、「その他の多くの要素が効果的に連携」しなくてはいけない。

医療と車は似ている。「良い部品を揃える」だけではダメなのだ。だが、医療業界は素晴らしい部品を集めるのに固執している。最高の薬品、最高の機器、最高の専門家を求める一方で、「それらをどう調和させるか」について、あまり考えていない。このやり方は間違っている。

少しでも「システム」について知っている者ならば、「各部をそれぞれ最高のものにしても、全体が良くなるわけではない」ということを理解しているはずだ。例えば、世界最高の車を作るために、世界最高の部品を集めたとする。フェラーリのエンジン、ポルシェのブレーキ、BMWのサスペンション、ボルボのボディーを組み合わせたとしよう。でき上がるのは、世界最高の車からはほど遠い、「高価ながらくた」だ。(バーウィック氏/医療システムの専門家)

私達が医療でやってきたのは、まさにそれだ。次々と「医学の発見」をしているが、「それらの発見をどうやって医療の現場に取り入れていくか」について、あまり考えていない。「失敗の原因を究明する機関」もない。「使い易いチェックリストを作るもの」もいない。「各月の結果を記録し、成績を分析するような機関」もない。数多くの分野が医療と似たような状況にある。日々の失敗を精査することは、まずない。「ミスの傾向」を調べようともせず、ミスが繰り返し起きていても、何も対策を講じない。

誰しもが「細部の見逃し、知識の誤適用、凡ミス」などに悩まされている。でも多くの人々は、「ひたすら努力を重ねる以外の解決方法はない」と思い込んでしまっている。

人間に飛ばせるかわからないほど複雑な機械(飛行機)を前にした彼らは「人間の限界」を認め、「チェックリストの力」に気づいた。「複雑化した現代に私達」に他の選択肢はない。素晴らしい能力とやる気を持った者でさえも、同じミスを何度も何度も繰り返していることに気づくはずだ。ミスは起き続けている。「今までのやり方」を変えていかなくてはいけない。「チェックリスト」を試してみて欲しい。

(アトゥール・ガワンデ『あなたはなぜチェックリストを使わないのか?』)

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