2015/02/16

原発ホワイトアウト

原発はまた必ず爆発する。

若杉冽『原発ホワイトアウト』を読んだ。原発再稼働をめぐる現役官僚告発的小説。日本を牛耳る「電力モンスターシステム」。満足度★★★★★。

「原発再稼働」をキーワードに、「電力業界と政治」の世界の仕組みや、官僚の世界、マスコミがどのように動いているか、支配しているかがよくわかる小説だった。とても面白い。現実の日本社会の勉強になる。世の中の動きを正確に知ろうとしたら、表だった「きれい事」を学ぶだけではなく、なかなか表には出てこないが実際日本社会を支配している「裏社会システム」も知る必要がある。

「反原発の人達をいかに潰していくか」の方法がリアル感たっぷりでまた恐ろしい。実際行われている手法なのだろう。「電力モンスターシステムに組み込まれた人達」が収入を得て生活のためとはいえ、「誠実さ」がまったくない世界だな。

これまでは、このモンスターシステムで動いてきた日本だが、今後も維持できるとは限らない。はやり東日本大震災が「転換期」として大きなきっかけになっている。次の大きな分岐点は、この小説中にも登場した「2016年、電力完全自由化」。

日本が良い方向に向かえばいいが、最悪のシナリオは、この小説がシュミレーションするような「原発再稼働⇒再び原発爆発(メルトダウン)」で、原発立地周辺だけでなく広範囲で日本の土地で住めなくなり、日本社会は崩壊する、かもしれない。他の問題はなんとかなるかもしれないが、「放射能汚染」だけは、その土地に半永久的に住めなくなるので、どうしようもない。フクシマ原発事故を経験してもなお「そのリスク」を許容できるのかどうか。

また「小説」という形だから、多くの人に届きやすい。「人間はストーリーが好き」だから、頭にも入り易く、残りやすい。

次ぎは著者の第二弾『東京ブラックアウト』を読もう。


【語録】

・10電力会社による地域独占、原発の推進、それによってもたらされる政界と財界た官界の結びつき。

・これからの課題。「再稼働」「電力システム改革の阻止(発送電一貫体制、原発の堅持)」「世論対策(料金値上げの容認)」。

・電力システム改革のゲームには、電力会社や政治家が参戦する。しかし、制度の細部の決定権を最後の最後まで放さないことが官僚パワーの源泉なのだ。

・日本の社会は「仕切られた多元主義」だ。人材の流動性が低い中、それぞれの組織が独自の利益を極大化しようと志向すれば、全体としては最適な結果をもたらさない。人口ボーナスで逃げ切れる団塊の世代は、それでいいのかもしれないが、人口減少の時代にあって、これから生きて行く若い世代は違う。

・日本の社会は「組織の中で個人が飼い殺しにされる構図」である。多くの組織の中堅どころは、それに気がついている。

・電力会社が総括原価方式によってもたらされる超過利潤(レント)によって、政治家を献金やパーティー券で買収し、安全性に懐疑のある原発が稼働し、再び事故が起こるということは、何としてま避けなければならない。

・電気料金という名の会社の売り上げは、天から降ってける。景気動向には、それほど左右されない。努力しなくても、売り上げの結果は変わらない。創意工夫の余地もない。必然的に、支店の社員は、仕事の中身ではなく、仕事以外の事柄、趣味に打ち込むのであった。

・「政党交付金」が表の法律上のシステムとすれば、「総括原価方式の下で生み出される電力料金のレント、すなわち超過利潤」は、裏の集金・献金システムとして、日本の政治に組み込まれることになった。このモンスターシステムは、日本の政治に必須の動脈となった。近年の構造改革路線で、ゼネコンや医師会の利権が痛めつけられていることからすると、もはや日本では最大最強の利権になっている。

・ルールというのは、いくらでも穴があるものなのだ。

・「原発を再稼働させないと電気料金はどんどん上がる」という構図を示し、大衆に理解させれば、徐々にアンチ原子力の熱は冷めていく。「原発事故もいやだけど、月々の電気料金の支払いアップも困りますよね」とワイドショーのコメンテーターが呟(つぶや)けばよいのである。大衆は、ワイドショーのコメンテーターの意見が、翌日には自分の意見になる。

・原発事故直後は、「停電か、再稼働か」という二者択一を迫ったが、図らずも国民の節電意識が浸透し、原発が動かなくても電気が足りることが立証されてしまった。この手がつかえないとなると、次は「値上げ」で大衆を脅すしかない。

・大衆は常に「自分よりうまくやる奴」を妬み憎む。「公務員でもないのに競争がないなんて許せない」「競争がないなら電力会社の経営は合理化されていないはずだ」「電力会社同士で競争させれば料金は下がるはずだ」と大衆は思っているのだから、電力業界で競争原理の導入を謳った「電力システム改革」の実施を政府で決めて、これからは競争が起きると大衆に信じさせればよい。

・原発を動かすと、10万年もの間、放射線を出し続ける核のゴミが出てくる。フクシマのように事故のリスクもある。費用も安くない。これじゃ、原子力は否が応にも進まない。進めるメリットがないから。だからこそ、絶対に「もんじゅ」は動かさなくてはいけない。原子力政策の正当性を維持し、原子力ムラの飯の種を維持するためには、「もんじゅが動く」と言い続けないと、原子力の神話が崩壊する。

 ・周辺住民の日常生活を一瞬にして破壊してしまう原発事故のリスク。

(若杉冽『原発ホワイトアウト』)


【追記】

橋本勝さんの『脱原発憲法』と『反原発』の風刺マンガ。「原発再稼働」と「電力モンスターシステム」の『原発ホワイトアウト』を読んだ直後だけに、この風刺漫画のメッセージ性を強く感じる。


(橋本勝さんの『脱原発憲法』)


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